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緊張して食欲が低下した経験ありませんか? 心理的ストレスと食欲変化のメカニズムが明らかに

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆1/24 医療NEWS Q Life Pro
◆2/3 Medical Tribune
◆2/3 日本経済新聞(朝刊)
◆3/27 UNN関西学生報道連盟
◆3/31 北国新聞(夕刊)

本研究のポイント

? ストレスフルな状況があると「食欲」が低下する。
? 心理的ストレス下では、将来の予測や食欲制御に関わっている「前頭葉」の脳活動に大きな変化。

概要

 水果老虎机_水果机游戏-中彩网官网推荐大学院医学研究科 運動生体医学の吉川 貴仁(よしかわ たかひろ)教授、石井聡(いしい あきら)病院講師らの研究グループは、心理的ストレスが原因となって食欲に変化が生じる脳神経メカニズムを明らかにしました。
 これまでに心理的ストレスと「食べる量の増減」に関する報告はありましたが、「あー、食べたい」という食欲(欲求)の自覚度合いとの関係は明らかにされていませんでした。
 本研究グループは、試験やプレゼンなどの心理的負担がかかるイベントを目前に控えたストレスフルな状況下における食欲の変化と、それに伴う脳活動を脳磁図法を用いて測定しました。その結果、試験や人前でのプレゼンなどの心理的負担がかかるイベントを目前にした状況下では、空腹状態であっても食欲が抑えられ、また、将来の予期や食欲制御を行う「前頭葉」の活動にも変化が見受けられました。本研究結果から、将来の心理的負担を予期することで活性化した前頭葉の働きが食欲を低下させる可能性が高いことが明らかになりました。本研究成果は日本時間2020年1月23日(木)午前4時に科学雑誌『PLOS ONE』にオンライン掲載されました。

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石井聡 病院講師

?研究者からのコメント
 重要な試験や大切な試合の前に食欲がなくなった経験はないでしょうか。目前に迫った試験や試合のことを考えるときに使う脳の領域が食欲の制御を行う脳の領域と重なっていることが、食欲が低下する原因かも知れません。私たちは、食欲に関する脳のメカニズムを明らかにすることを目指して研究を行っています。

研究背景

 現代社会には種々の心理的ストレスが存在しています。心理的ストレスによって食欲の増加や減少が引き起こされ、健康を害する要因となることは知られています。しかしながら、心理的ストレスが食欲に影響を与える神経メカニズムは明らかにされていませんでした。

研究内容

 心理的ストレスの存在によって食欲が増加する場合もあれば減少する場合もあります。本研究では、試験や人前でのプレゼンテーションなどの心理的負担のかかるイベントを目前に控えた状態を実験的に作り出し、このような将来の心理的負担を予期することで生じる「食欲の低下に関連する脳の活動」を脳磁図※1という方法を用いて測定しました。(図1)。なお、先行研究において食品の画像を見ている間の脳の活動を測定することで、食欲や食行動に関わる脳の働きを探ることができることが知られています。
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実験方法

 健常成人男性22名を対象に、<ストレス条件>と<非ストレス条件>の2つの実験を別々の日に行いました(図2)。いずれの条件も、人前で暗算とスピーチを実施する課題(暗算?スピーチ課題)と、その後に行う食品の画像を見る課題(画像課題)から成ります。さらに、暗算?スピーチ課題から画像課題に移る前に、以下のように予告しました。
<ストレス条件>:「画像課題の終了後にもう一度、暗算?スピーチ課題を実施します」
<非ストレス条件>:「画像課題の終了後に、簡単なアンケートだけ答えてもらいます」

 人前で行う暗算とスピーチには、相当な心理的負担がかかるため、<ストレス条件>では、「(後で)もう一度実施する!」と告げられた暗算?スピーチ課題のことを予期しながら(ストレスフルな状況下で)、食品の画像を見ることになります。このような2つの条件で、画像課題中の脳の活動を脳磁図により測定しました。
 なお、実験参加者には前日の夜以降の食事?間食等は禁止し、当日は空腹の状態で参加していただきました。

図2 実験概要
図2 実験概要

結果

 <ストレス条件>では画像課題の直前?直後のタイミングで実験開始前に比べてストレスの自覚度合いが増加していましたが、<非ストレス条件>では増加を認めませんでした(図3)。一般的にストレスがかかっているときには交感神経系の活動が増加することが知られています。そこで、画像課題中の交感神経系の活動を調べたところ、<ストレス条件>では<非ストレス条件>に比べて活動が増加しており(図4)、この結果からも「ストレス条件」では「非ストレス条件」に比べて心理的なストレスを感じた(ストレスフルな)状態で画像課題を行っていたことが確認できました。
 また、<非ストレス条件>では実験開始前、画像課題前、画像課題後と時間が経過するにしたがって食欲が増加しましたが、<ストレス条件>では食欲の増加は認められず、<ストレス条件>では<非ストレス条件>に比して相対的に食欲が抑制された状態であったと考えられました(図5)。
 <ストレス条件>と<非ストレス条件>とで食品画像を見ている間の脳の活動に違いがあるかを検討したところ、<ストレス条件>では<非ストレス条件>に比べて前頭葉の一部である前頭極という脳領域でα帯域(8~13 Hz)の脳磁場活動※2に変化がみられることが明らかになりました(図6)。
※1 脳磁図: 脳神経細胞(ニューロン)の電気的な活動によって生じるごく微弱な磁場を、頭の外に配置した超電導現象を利用した複数の超高感度磁気センサー(超電導量子干渉素子)によって測定する方法。体内で発生した磁場を体外に置いたセンサーで測定できる極めて安全性の高い検査です。また、測定した磁場が脳のどの部位からいつ発生したのかを高い精度で推定できるという特徴があります。
※2 α帯域の脳磁場活動: 一般に、脳神経の電気的な活動およびそれに伴う磁場は、毎秒数回~数十回といった周期的な変動として観察されます。そのうち、毎秒8~13回(8~13Hz)の周期で変動する成分をα帯域と呼び、今回の実験では、このα帯域の成分にのみ有意な結果が出ました。

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 これらの結果から、心理的に負担のかかるイベントを目前に控えた状況下における食欲の抑制には前頭極という脳領域が関わっていると考えられます。これまでに前頭極は将来の出来事の予期や食欲の制御に関わっていることが報告されていることから、心理的負担のかかるイベントを予期することに伴って活性化された前頭極が、もう一つの役割である食欲の制御という機能をも同時に発動してしまい、食欲が抑制された可能性を考えることができます(図7)。本研究では、心理的負担のかかるイベントを予期するという状況を実験的に作り出して検討しましたが、この結果は、心理的なストレスを感じる状況が異なれば、食欲に変化が生じる脳のメカニズムも異なるということも示唆しています。

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期待される効果

 私たちが健康に過ごしていくためには、食事の摂取を適切にコントロールすることが大切です。食事摂取は食欲のみによって制御されているわけではありませんが、食欲が脳の中でどのような仕組みで制御されているかを知ることは、私たちの食行動を理解する上で大切なポイントの一つです。本研究では、心理的な負担のかかるイベントを予期することに伴う食欲の低下という限られた状況下ですが、食欲制御に関わる神経メカニズムの一部を示すことに成功しました。このような研究の蓄積によって食欲の神経メカニズムが明らかになれば、個々のケースで食欲を適切なレベルに保つことができていない原因を明らかにして、その対策を講じることも可能になると期待されます。

資金情報

 本研究は、科研費(16H03248、17K01860)の対象研究です。

掲載誌情報

発表雑誌: PLOS ONE(IF = 2.776)
論文名: Neural effects of acute stress on appetite: a magnetoencephalography study
著者: Chika Nakamura, Akira Ishii, Takashi Matsuo, Rika Ishida, Takahiro Yamaguchi, Katsuko Takada, Masato Uji, Takahiro Yoshikawa
掲載URL: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0228039