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特定の嗅覚受容体が抗疲労技術に関わる可能性を示唆

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
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◆10/21 日経産業新聞、化学工業日報
◆10/22 日刊工業新聞
◆11/6 財経新聞

概要

 医学研究科の渡辺恭良 特任教授、山野恵美 特任助教らのグループは、花王株式会社(社長?澤田道隆)感性科学研究所との共同研究において嗅覚受容体に着目した研究を行い、このたび、香りによる抗疲労作用機構の一端を明らかにしました。本結果は、抗疲労技術の開発につながる知見になると考えます。

  1. 約400種存在するヒトの嗅覚受容体の中から、抗疲労作用を示すことが知られている2種の香りに共通して応答する嗅覚受容体6種を特定することができました。
  2. 約170種類の香料の中から、それらの受容体を活性化する作用のある香料の混合物を見出し、その香りが抗疲労作用を示すことを確認しました。
  3. 嗅覚受容体を活性化する香りの抗疲労作用をパフォーマンス試験で確認しました。

 今回の一連の研究で、特定の嗅覚受容体の活性化に基づく、新しい抗疲労技術の開発の可能性が示唆されました。特定の嗅覚受容体を活性化する香りによる抗疲労作用を科学的に実証した今回の成果が、「快適な生活実現」に貢献するモノづくりに応用されることを期待いたします。

【研究結果①】
 抗疲労作用を示す2種の香りに共通して応答する6種の嗅覚受容体を特定

 ヒトの嗅覚受容体を発現させた培養細胞の評価系を用いて、約400種のヒト嗅覚受容体のうち、どの受容体が抗疲労作用を示す香りに応答するかを調べました。抗疲労作用を示す香りとしては、これまでに研究報告のあるcis-3-hexenolおよびtrans-2-hexenalの混合物(Hex-Hex Mix, グリーン香)と、グレープフルーツ精油を使用しました。細胞に発現させた嗅覚受容体が活性化すると、細胞内の情報伝達物質が増加します。この情報伝達物質の増加を測定した結果、6種の嗅覚受容体(1A1、2J3、2W1、5K1、5P3、10A6)が2種の香りにより共通して活性化されることを明らかにしました(図1)。これにより、6種の嗅覚受容体が、抗疲労作用に関係する可能性を示しました。

図1 嗅覚受容体の特定
151020-1.png

【研究結果②】
 抗疲労作用を示す香りに共通して応答する
            受容体を活性化する新しい香りの特定

 抗疲労作用を示す香りに共通に応答する6種の嗅覚受容体に対し、それぞれの受容体を活性化する新しい香りの探索を行ないました。約170種類の香料の中から、「メチルイソオイゲノール」、「l-カルボン」、「メチルβナフチルケトン」、「フェニルエチルアセテート」の4種の香料の混合物である、ハチミツがかった甘い花の香り(MCMP)が、6種の受容体を活性化することを見出しました(図2)。

図2 Hex-Hex Mix, グレープフルーツ精油, MCMPに応答する嗅覚受容体の比較
151020-2.png
  *1 Hex-Hex Mix : cis-3-hexenol + trans-2-hexenal の混合物 (グリーン香)
  *2 MCMP    : Hex-Hex Mixとグレープフルーツ精油の2種の香りに共通の、
             6種の嗅覚受容体(1A1、2J3、2W1、5K1、5P3、10A6)を活性化させる香り

【研究結果③】
 受容体を活性化する香りの抗疲労作用をパフォーマンス試験で確認

 本学において、抗疲労作用を示す香りに共通して応答する嗅覚受容体を活性化するMCMPによる抗疲労作用を、パフォーマンス試験で調べました。17名の健常男性を対象に、MCMPの香りあり、なしの条件下でパソコン作業による疲労負荷を40分間行い、その前後で作業効率の指標である、課題の正答率を評価しました。その結果、香りなしの場合に疲労負荷後に正答率が有意に低下するのに対し、香りありの場合には正答率の低下が認められず、疲労が抑制されたことが示唆されました(図3)。

図3 MCMPの疲労抑制効果
       151020-3.png

 なお、本研究成果は、第11回日本疲労学会総会?学術集会(山口県 2015年5月15日~16日)および日本味と匂学会第49回大会(岐阜県 2015年9月24日~26日)にて発表しています。

研究背景

 自然界に存在する香りは嗅覚受容体を介して認識されます。嗅覚受容体の数は動物種によって異なりますが、鋭い嗅覚をもつとされるマウスで約1000種、ヒトでは約400種類の嗅覚受容体があることが分かっています。1つの香りは少なくとも2個以上の嗅覚受容体によって認識されることが多く、ヒトや動物は、活性化する嗅覚受容体の組合せによって、自然界に存在する数十万種類の香りを嗅ぎ分けることができます。
 自然界の香りの中には、生理的な作用(覚醒、鎮静作用等)をもたらすものが存在します。嗅覚の本質を追究する研究に注力している花王株式会社の感性科学研究所は、特に、香りが生理的な作用を示す機構の一つとして、香りを認識する嗅覚受容体が大きく関わっているのではないかと考えて嗅覚受容体に着目した研究を行っており、抗疲労に関する研究を精力的に行っている本学医学研究科システム神経科学と共同研究の実施に至りました。
 香りの生理作用に関する研究は、グレープフルーツ精油による抗肥満作用やラベンダー精油によるリラックス作用等これまで幾つか知られています。しかしながら、生理作用に関わる可能性のある嗅覚受容体まで特定し、実際にヒトの抗疲労における生理作用との関連を確認した研究は今回が初めてであり、今後、日用品等への応用が期待されます。